平成27年度 宅建士試験民法 弁護士による解説(改正民法対応)

平成27年度の宅建士試験の過去問を弁護士が解説します。

市販の過去問集やウェブサイト上の解説記事は民法改正に対応していませんでしたので、真面目にその解説を読むと逆効果です。

たとえば、平成27年第3問では、使用貸借が諾成契約か要物契約かを問われています。当時の正答は要物契約ですが、現在の正当は諾成契約です。真面目に解説を読み、要物契約であると理解してしまうと現在では完全に誤りですし、時間の無駄です。

そこで、弁護士が改正民法に従って解説を作成しました。

解説はできるだけ簡素化しています。なぜならば、資格試験では、解説や教科書などでインプットに勤しむよりも、ポイントを理解したらすぐに次の問題に移って合うトップットの量を増やした方が合格しやすいからです。

なお、問題文は付していません。

第1問 条文

問題正誤解説
1 消滅時効民法167条
「債務の不履行に基づく人の生命又は身体の侵害」の典型例は、医療過誤や労働契約上の安全配慮義務違反です。
なお、不法行為によって人の生命又は身体を害した場合の、損害賠償請求権は5年です(724条2項)。不法行為の典型例は交通事故です。
2 保証契約民法465条の6。保証人の自殺などの保証被害を防止するため、要件を厳格としたものです。
3 併存的債務引受民法470条2項
4 過失相殺民法418条
民法改正を意識した問題です。しかし、このような問題は、改正民法を学ぼうとした人ほど当時の民法と改正民法を混同して、不正解となってしまいかねません。逆に、改正学ぼうとしなかった人は混同せず答えやすいはずです。真面目に学ぼうとする人が不利となる問題は妥当ではありません。

第2問 虚偽表示

問題正誤解説
仮装行為者(A)は、第三者の登記の欠缺(登記していないこと)を主張できません(最判昭44年5月27日)。
×直接的には最判昭和57年6月8日。ただし、「第三者」の定義として、「虚偽表示の当事者又はその一般承継人(例:相続人)以外の者であって、その表示の目的物につき法律上の利害関係を有するに至った者をいう」とした大判大9年7月23日を知っていればわかります。「表示の目的物」は甲土地であり、乙土地ではありません。
類最判昭48年6月28日
最判昭45年7月24日
判例の知識が問われているようにも見えますが、知っておいた方が良い判例は、大判大9年7月23日のみであり、これだけ知っていれば解けます。間違えたからといって判例をたくさん覚えようとしてはいけません。たとえこの判例の知識がなくても、目的物が異なることの違和感に気付くことが大切です。

第3問 賃貸借と使用貸借

問題正誤解説
使用貸借は借主の死亡によって終了します(597条3項)。賃貸借は、借主が死亡しても相続されます。賃貸借に限らず、契約関係は原則として相続されるが、使用貸借は例外であるという原則と例外の思考が大切です。

ちなみに、委任契約も受任者(又は委任者)の死亡によって終了します(653条1号)。弁護士と依頼者との関係は委任契約ですが、殺人事件の弁護を受任している弁護士が死亡したとき、その家族が契約上の地位を相続して、これまで専業主婦だった妻が突如として法廷で被告人の弁護活動を行うことには非常に違和感があることから容易に理解できるでしょう。
賃貸借に関しては民法608条1項。使用貸借に関しては595条1項。
×賃貸借に関しては民法601条。使用貸借に関しては民法593条。

かつては使用貸借は要物契約でした。「アパートの一室を貸してあげるよ」と口約束をしていても、実際に建物を引き渡さない限りは、「やっぱりやめた」と言えば契約は成立しなかったものが、そうは言えなくなったのです。
使用貸借であっても契約不適合責任(瑕疵担保責任)を負います。ただし、その程度の問題として、貸主は、契約時の現状のままで目的物を引き渡す合意であったと推測されることになります(596条、551条1項)。

使用貸借は無償であることから契約不適合責任はないと思われがちなので注意です。契約を締結すると、有償であれ無償であれ、たいていは責任を負います。

第4問 取得時効

問題正誤解説
×賃貸借契約での占有には「所有の意思」(162条)がないため、所有権の時効取得はできません。いつかは返す意思で占有しているのです。
×民法187条1項。相続のような包括承継にも適用されます(最判昭37年5月18日)。
時効取得の場合は原則として登記は不要であるが、例外的に時効完成後に所有権を取得した第三者に対抗するためには登記が必要という原則と例外の思考が大切です。

(時効取得と登記の要否)
・時効完成時の所有者との関係では、登記なく対抗できます(大判大7年3月2日)。
・時効完成前に所有権を取得した第三者との関係では、登記なく対抗できます(最判昭41年11月22日)。
・時効完成後に所有権を取得した第三者との関係では、登記がなければ対抗できません(最判昭41年11月22日)。
×最判平16年7月13日。耕作をして農地を継続的に占有している者について時効取得を認めても、農地法の趣旨に反することはないためです。
選択肢4の判例は知らなくても解けるはずです。細かい判例は覚えようとしないことが大切です。

第5問 占有

問題正誤解説
×最判昭27年2月19日
×最判昭35年3月1日

BがCに対して明渡しを求めた場合には、Cは占有権原(「賃貸借契約を締結しています」など)を主張立証する必要があります。民法188条を援用するだけで明渡しを拒否できるのであればそれほど楽なことはありませんから、常識的にも判断可能な選択肢です。
民法197条(「他人のために占有をする者も、同様とする。」)
×特定承継人に対しては不可(200条2項)。
細かな条文や判例を知らなくとも、1と2の選択肢は一般的な感覚からも判断できる人が多いでしょうし、4のような「当然に」「常に」「必ず」といったワードには警戒すべき受験テクニックからして悩んだときは誤りと判断すべき選択肢です。細かい条文や判例は覚えようとしないことが大切です。

第6問 抵当権

問題正誤解説
最判昭40年5月4日
×主たる債務者も、保証人も、抵当権消滅請求をすることはできない(380条)。抵当権消滅請求をできるのは、抵当不動産の第三取得者である(379条)。
民法378条
民法389条

第7問 抵当権

問題正誤解説
このタイプの問題は、次の手順で解きます。

1 本来の配当額を出す。
     第1順位 B 2000万円
     第2順位 C 2400万円
     第3順位 D 1000万円
     一般債権 DE     0円 ※Dは未回収分。

2 各行為の意味に応じて配当を変更する(各行為の意味を覚えておく)。
①抵当権の譲渡 :抵当権を失い、相手方が抵当権者、自身は一般債権者となり相手方優先で分ける
     第1順位 E 2000万円
     第2順位 C 2400万円
     第3順位 D 1000万円
     一般債権 BDE    0円
×②抵当権の順位の譲渡 :抵当権は残っており、相手方との優先配当額合計を相手方優先で分ける
     第1順位 BD 2000万円(D:2000万円、B:0万円)  ∵相手方が優先
     第2順位  C  2400万円
     第3順位 BD 1000万円(D:1000万円、B:0万円)  ∵相手方が優先
     一般債権 BDE     0円
③抵当権の放棄 :抵当権は残っており、それぞれの優先配当額合計を相手方と債権額に応じて分ける
           ※「抵当権自体を放棄しているのではなく、抵当権の優先配当額から全額受領する権利の放棄」と理解しましょう。
     第1順位 BE  2000万円(B:1000万円、E:1000万円)  ∵B:E=1:1(2000万円:2000万円)
     第2順位 C  2400万円
     第3順位 D  1000万円
     一般債権 BDE      0円
④抵当権の順位の放棄 :抵当権は残っており、それぞれの優先配当額合計を相手方と債権額に応じて分ける
     1番順位 BD 2000万円(B:667万円、D:1333万円)    ∵B:D=1:2(2000万円:4000万円)
     2番順位 C   2400万円
     3番順位 BD 1000万円(B:333万円、D:667万円)    ∵B:D=1:2(2000万円:4000万円)
     4番順位 BDE     0円
「放棄」という言葉が紛らわしい。抵当権を捨てるわけではない。解けない受験生がおかしいのではなく、法律がおかしい。
まとめ相手方処理つまり
譲渡一般債権者相手方優先で分ける一般債権者に優先させる
順位の譲渡抵当権者相手方優先で分ける抵当権者に優先させる
放棄一般債権者債権額に応じて分ける一般債権者と按分
順位の放棄抵当権者債権額に応じて分ける抵当権者と按分

第8問 同時履行の抗弁権

問題正誤解説
×建物明渡しが先履行の関係にある(最判昭49年9月2日)。 これは覚えておくべき。
×原状回復は同時履行である(最判昭47年9月7日)。 これは覚えておくべき。
大判大7年8月14日

第9問 転貸借

問題正誤解説
×設問の判決文に示されている。
賃貸人と賃借人との間で合意解除はできる。設問の判決文は、その合意解除を転借人に対抗できないと述べている。
信頼関係が破壊されたか否かによるため、いずれの場合もできる場合とできない場合がある。
実務上は、3か月の賃料不払いにより信頼関係の破壊が認められやすい。しかし、設問文では1か月滞納の可能性もあるし、6か月滞納していても信頼関係を破壊しない事情があれば法定解除権は行使できない。
設問の判決文に示されている。

第10問 相続

問題正誤解説
×変更箇所を指示し、変更した旨を付記し、別途その部分に署名し、変更箇所に押印しなければならない(968条3項)。

※実際に、Googleの画像検索などで「自筆証書遺言 修正」などと検索してみるとイメージしやすい。
※そもそも、「だけで」というワードが誤りの可能性が高い
×自署名の下でなくともよい。封筒の封じ目にしても有効(最判平6年6月24日)。
×民法1013条2項。大判昭5年6月16日。
最判平11年6月24日。

第11問 借地借家法

問題正誤解説
×更新の通知をしなかたっときは、期間の定めのないものとなる(借地借家法26条1項)。
×6か月後に終了する(借地借家法27条1項)。
×借家権の対抗要件は建物の引渡しである(借地借家法31条1項)。
造作買取請求権は、期間満了又は解約申入れの場合である(借地借家法33条1項)。

第12問 借地借家法

問題正誤解説
借地借家法31条(建物の引渡しにより対抗要件取得)に関する賃借人に不利な特約は無効である(借地借家法37条)。
×増額しない特約は有効である(借地借家法32条1項但書)。
×造作買取請求権の特約による排除は、普通借家契約でも有効である(借地借家法37条は同33条を含めていない。)

※①造作買取請求権を強行法規とすれば、造作に賃貸人が同意しない弊害があることや、②営業用造作は、その営業のために特化して施されており、オーナーや次の賃借人にとって価値がないことなどが理由である。
×定期借家契約に関する賃借人に不利な特約は無効である(借地借家法38条6項)。

オフィスのみでなく、居住用のアパートでも定期借家契約としている例は多い。転勤などの際にも契約を中途解約できないとなれば賃借人に不利である。

第13問 区分所有法

問題正誤解説
管理者又は集会を招集した区分所有者の1人が議長となる(区分所有法41条)。
×1週間前に発する必要がある(区分所有法31条1項)。
×議長及び集会に出席した区分所有者の二人が署名する(区分所有法42条3項)。
×区分所有法25条に任期の定めはない。

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