盗んだバイクで走り出した場合の罪責

とにかくもう会社や家庭には帰りたくない夜に、バイクを盗んで走り出すとどうなるのでしょうか。今回は盗難バイクで夜の帳の中へ逃げ込んだ場合の罪責を検討してみました。

本当に盗んでいた場合

窃盗罪が成立します。窃盗罪は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です(刑法235条)。

さらに、犯人が無免許運転であった場合は、3年以下の懲役または100万円以下の罰金となります(道路交通法117条の2の2)。ちなみに、普通二輪や原付の免許は、16歳以上でなければ取得できないため、15歳でバイクを運転すると無免許運転です。なんとなくですが、バイクを盗んだ人は15歳の可能性もある気がしています。

窃盗罪と無免許運転の罪の両方で起訴された場合、併合罪として、最長の懲役の1.5倍の懲役を科されることになります。ただし、2つの長期を合計した年数を超えることはできないため、10年+3年で懲役は最長13年となります(刑法47条)。

罰金については、罰金の多額の合計額となるため最大で150万円となります(刑法48条)。

犯行を認めている被疑者や被告人は、懲役が何年となるかのみではなく、実刑となるか執行猶予かについても興味を持っています。そのため、以下では、実刑か執行猶予かについて、情状の視点からも検討してみましょう。

【刑法】

(併合罪)
第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

(有期の懲役及び禁錮の加重)
第四十七条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

(罰金の併科等)
第四十八条 罰金と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条第一項の場合は、この限りでない。
2 併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。

被害額

窃盗罪において、量刑や執行猶予獲得を判断する上で重要な要素が被害額です。窃盗罪は他人の財産にダメージを与えたことに対する罪ですから、被ったダメージが大きいほど罪も重いのは当然です。スーパーで100円のお菓子を盗んだとしても、懲役10年の実刑になったりはしません。

今回の事案では、どのようなバイクを盗んだのかがよく分かりませんので、被害額は不明です。

仲間達と盗んだというのであれば、2台以上を盗んだ可能性はあります。バイクによっては2人乗り可能ですが、「仲間達」なわけですから、仲間は2人以上いるはずです。仲間達といいながら、仲間が1人しかいなかったというのでは寂しい話ですからね。3人以上で犯行を行ったのであれば、盗んだバイクは2台以上であり、被害額が高まる可能性があります。

しかし、「仲間」が友人などの人的関係を示す概念ではなく、苗字であった可能性も捨て切れません。日本の女優にも仲間由紀恵さんがおられることですし。改めて事案を丁寧に見直してみると、「仲間達と」バイクを盗んだのではなく、「仲間達は」バイクを盗んだのです。

そうすると、盗んだバイクで走り出したのが仲間氏であり、その後ろに1人の友人が乗っていたと考えることもできます。

「疑わしきは被告人の利益に」ともいいますから、仲間氏が1人の友人と共に実行し、2人乗りで夜の帳の中を走行したことにしましょう。そうすると、被害額は不明なままですが、盗まれたバイクは1台です。

なお、今後は、バイクを盗んだ者のことを「仲間氏ら」といいます。

計画性

刑事裁判においては、一般に、計画的な犯行は、偶発的な犯行よりも重く処罰されます。計画的であれば、犯行までの間に思いとどまる機会があったはずなのに、思いとどまることができなかったのであるから、強く批難されても仕方がないということです。

仲間氏らは、家出の計画を立てていますが、家出自体は違法ではありません。

問題は、家出の計画にバイクを盗むことまで含まれていたかどうかです。家出の計画にバイクを盗んで移動することまで含まれていたのであれば、計画性ありとして情状は重くなります。

超高層ビルの立ち並ぶ東京都から、闇の中でポツンと光る自動販売機のある地域まで家出をする計画だったものと考えられます。そうすると、電車やバスでの移動が困難な時間帯に長距離の移動をしなければなりませんから、移動手段としてバイクを盗むことまで計画していたとしても不思議ではありません。

しかし、そもそも、仲間氏らは行き先もわからぬままだったのです。行き先が決まっていない以上は、移動手段としてバイクを盗むことまで計画していたとはいえないでしょう。しかも、今夜決めた計画を今夜実行したのですから、入念な計画に基づく行動というよりは、思いつきの突発的行動です。

したがって、仲間氏らに計画性は認められません

前科

前科のある場合、重く処罰される傾向にあります。一度更生の機会を与えられたにもかかわらず、その機会を活かすことができなかったのですから、強く批難されても仕方がないということです。

仮に、夜の校舎の窓ガラスを壊してまわったことにより建造物損壊罪の有罪判決を受けていたことがある場合、それは前科となります。

しかし、おそらくですが、夜の校舎の窓ガラスを壊してまわったのは盗んだバイクで走り出してから2年後くらいのことと思われます。仲間氏らが高校卒業を控えた17歳くらいのころでしょうか。時系列が逆です。

そのため、当時、仲間氏らに建造物損壊罪等の前科はなかったといえるでしょう。

被害回復

仲間氏らとしては、被害者へのバイクの返還や賠償などを行い、被害者に生じた財産的損害を回復しておくべきです。

犯行を認めているのであれば、加害者としては、積極的に被害者に生じた被害の回復を図るのが倫理上自然なことはもちろんです。また、法律上も、窃盗罪の保護法益が他人の財産である以上は、財産的損害の回復があれば、いったん生じた法益侵害も復元したと評価することも可能であり、起訴猶予や執行猶予の可能性は高まります。

可能であれば、さらに、被害者から「許す」との宥恕の意思を獲得し、その旨を記した示談書を取り付けることが望ましいでしょう。

小括

これまで検討してきた事情からすれば、起訴猶予や執行猶予の可能性は十分にあるといえます。

しかし、本当に起訴猶予や執行猶予を目標として良いのでしょうか。

仲間氏らは、本当は、何も違法なことをやっていない可能性はないでしょうか

100人の真犯人を逃しても、1人の無辜を罰してはなりませんから、さらに綿密な検討が必要です。

少年法

仮に仲間氏らが15歳であった場合、少年法が適用されます。そして、昭和55年当時の少年法では、16歳未満の少年については検察官に送致することができないとされていました。

なお、現在では、平成9年の神戸連続児童殺傷事件などを受けて少年法が改正され、刑事処分可能年齢は16歳以上から14歳以上に引き下げられています。なんとなく本件は昭和55年の出来事のような気がしますので、昭和55年当時の少年法で良いでしょう

検察官に送致されなければ、家庭裁判所による保護観察決定や少年院送致決定などの処分がなされることになります。この場合、前歴とはなりますが、前科は付きません。

しかし、手続上、前科が付かなければ良いというわけではありません。そもそも違法なことをしていない可能性を探るべきです。

平成12年改正前少年法

(検察官への送致)
第二十条
 家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮にあたる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照して刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。但し、送致のとき十六歳に満たない少年の事件については、これを検察官に送致することはできない。

真実

窃盗罪

盗んだバイクが仲間氏らの同居の兄弟のバイクであったという有力な証言があるようです。この場合、窃盗罪は親族相盗例(刑法244条)として刑は免除されるという考え方もあります。

しかし、そもそも、同居の兄弟のバイクであった場合は、本当に「盗んだ」のかという点も問題となります。

同居の兄弟であれば、兄弟から「借りた」ものとして、窃盗罪の成立に必要な不法領得の意思を欠き、仲間氏らに窃盗罪は成立しないというべきでしょう。

道路交通法違反その1

同居の兄弟のバイクであったとしても、無免許運転の罪は成立します。

しかし、よくよく資料を検討すると、「15の夜」ではありますが、「15歳の夜」とは一言も書かれていません。

仲間氏らは、冷たい風が吹き、熱い缶コーヒーを握りしめる季節に、星空を見つめていたのです。

ようやく真実に近づいてきましたね。そうです、「15の夜」とは、夏が過ぎ、涼しくなり始めた季節である9月後半の、お月見をする15夜を意味していたのです。15は年齢ではありませんから、仲間氏らは、16歳となった日以降に免許を取得したうえで、お月見をするために家出したのです。

道路交通法違反その2

さらに資料を検討すると、「バイク」がモーターバイクを意味するとはどこにも述べられていません。欧米では、マウンテンバイクのように、自転車のことをバイクと呼びます

仲間氏らが帰国子女であったとすれば、ついつい自転車のことを「バイク」と表現してしまったのかもしれません。自転車に運転免許は不要ですから、これなら無免許運転の罪は成立しませんね。

そうすると本件の真相は、Mr.仲間らが、ムーンライトを求めて、ブラザーのバイシクルでランナウェイしただけということになるでしょう。

そのため、仲間氏らにはいかなる犯罪も成立しません

めでたし、めでたし。

エピローグ:実は盗んでいなかった場合

なお、本件がフィクションだった可能性もあります。この場合、バイクを盗むという実行行為が存在しない以上は、窃盗罪は成立しません。無免許でバイクを運転したこともないため、道路交通法違反も成立しません。完全なホワイトです。

しかし、逆にフィクションだった場合が一番恥ずかしいのではないでしょうか。嘘の犯罪自慢をしていることになってしまいます。

ワルに憧れる若者が「自由」という場合は、自分のやりたくないことをやらないという意味でしかないように思います。「自由」という言葉の重みを理解するためには、学生時代に教科書に落書きしたり外ばかり見たりせず、真面目に勉学に励んだ方が近道というものです。

ただ、仲間氏らも「自由になれた気がした」としか言っていません。気がしただけなのです。兄弟のバイシクルで走り出した程度では本当の「自由」は得られないということに、仲間氏らも気付いていたのかもしれませんね。

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