不動産の即時取得の実務的考察

弁護士、裁判官、検察官のいずれになりたい場合であっても、司法試験合格後に司法研修所というところで司法修習という研修を受けなければなりません。そして、司法修習を修了するためには、二回試験と呼ばれる試験に合する必要があります。

司法試験が一回目の試験、司法研修所の終了試験が二回目の試験と捉えて、伝統的にこのように呼ばれています。

そして、法曹界では、嘘か誠か、その二回試験の答案に不動産の即時取得を記載して不合格となった者がいるという噂話が語り継がれています。

【民法】

(即時取得)

第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

(即時取得)

第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

(即時取得)

第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

しかし、弁護士たるもの、依頼者が一見不合理なことを言っているとしても、依頼者の意思を尊重し(弁護士職務基本規程22条1項)、最善の弁護活動をすべきではありませんか。

相田おねえさん

そうだそうだ

不動産の即時所得は正しいのです。結論が先にあって、理屈は後から考えるというのが、弁護士と他の士業(司法書士、行政書士、税理士、公認会計士など)との違いであると聞いたことがありますよ。

なお、今後は、上記不合格となった者のことを「ご依頼者」と呼びます。

トレーラーハウス

コラム「動く不動産」では、トレーラーハウスが動産か不動産かについて検討しました。

動く不動産

復習となりますが、トレーラーハウスを土地に置き、シャワーやトイレの排水をライフラインに接続すると、トレーラーハウスは自動車として動産でありながら、地方税法上は「家屋」として固定資産税を課されるという結論でしたね。

そのため、トレーラーハウスを動産として即時取得したものの、地方税法上は不動産として扱われたというケースも想定可能です。

ご依頼者は、社会のルールに縛られることなく、長野県の原村あたりの林の中にトレーラーハウスを設置し、犬やヤギ、ヒツジ、ニワトリを飼い、ジャガイモ、トマト、ニンジン、バジルなどを栽培し、ときには山でコゴミやタラの芽などの山菜を採りながら、静かに暮らすことを夢見ていたのかもしれません。実は私も同じです。わかります。

長野県原村での生活を夢見るご依頼者としては、試験の問題文中に「建物」との文字を見つけたとき、頭の中には真っ先にトレーラーハウスが思い浮かんだことでしょう。トレーラーハウスは本来は動産であるため、即時取得を検討してしまってもやむを得ません。

相田おねえさん

そうだそうだ

不動産がトレーラーハウスの可能性を考慮せずに不合格とした採点官は、都会に毒され、寂しい心を閉ざしてスクランブル交差点を歩くハードワーカーだったのかもしれませんね。

民法と地方税法の狭間から即時取得の主張が誕生したといえます。

テント

トレーラーハウスが建物と評価される可能性があるのであれば、テントはどうでしょうか。

上記「動く不動産」のコラムで検討したとおり、不動産登記法上の「建物」といえるためには、①外気遮断性(屋根及び周壁等を有すること)、②土地定着性)、③用途性の3要件を満たすか検討する必要があります。

テントは、①建物とは評価されない農地上のビニールハウスと同様に、長期間使用可能な屋根及び周壁を有しないこと、②テントと土地を固定するプラグは容易に取り外せるため、一時の用に供するものにすぎず、土地に定着していないことなどからして、建物には該当しないというべきです。

参考判例

「土地の定着物とは一時の用に供する為めに非ずして、土地に附着する物なるにより、一時土地に附着せしめたる仮植中の草木の如きは土地の定着物を以て目すべきものにあらず。従て斯くの如き物は総て動産なりと謂わざるべからず。」

大審院大正10年8月10日判決・大正10年(オ)第483号

また、不動産登記事務取扱手続準則82条1項は、「天井の高さ1.5メートル未満の地階及び屋階(特殊階)は、床面積に算入しない。」と定めています。これは、天井の高さ1.5メートル未満であれば、一般的な大人であれば生活可能な空間とはいえないことを理由としているものと考えられます。そのため、天井の高さ1.5メートル未満のテントは用途性を満たさないと考えることも可能です。

そのため、ご依頼者が、試験の問題文中の「建物」をテントであると誤認した可能性は低いといえます。

相田おねえさん

そうなんだ。

そもそも、テントが不動産登記法上の「建物」に該当するのであれば、キャンプ場では、テントを設営するたびに、キャンプサイト利用料に加えて、建物保存登記の登録免許税を求められることにもなってしまいかねません。司法書士試験の受験者が増えますね。

リカちゃんハウス

小さな頃を思い出してみてください。みなさんの憧れの家とはどのようなものでしたか。

私たちが憧れた家とは、キッチン、広いリビング、広いお風呂、階段、二階の子ども部屋、二段ベッド、お化粧台などが備わったものだったのではりませんか。

そうです。私たちにとって、家といえば、「リカちゃんハウス すてきなリカちゃんのお部屋」(3500円(税別))なのです。

相田おねえさん

そうだそうだ

もはや不動産登記法上の「建物」の概念など検討する余地さえありません。リカちゃんハウスは家です。家とは建物であって、それは土地の定着物ですから、つまりは不動産です(民法86条1項)。

house(名詞)/ houses(複数形)

意味; 家、家屋、住宅、建物 

発音; hάʊs

心の汚れた大人には、このリカちゃんハウスが動産にしか見えないことでしょう。

しかし、大人の目で見れば動産かもしれませんが、5歳児の目で見れば不動産なのです。

ご依頼者は、いつも娘たちとリカちゃん人形で遊ぶなど、大人でありながら、子どもの目線が染みついてしまっていたのかもしれません。そんなご依頼者にとって、試験問題に出てくる「建物」がリカちゃんハウスに見えてしまっのでしょうう。

リカちゃんハウスは本来は動産ですから、即時取得を検討することは何ら不自然ではありません。

不動産がリカちゃんハウスである可能性を考慮せずに不合格とした採点官は、自分を捨てろ捨てろと言っている大人達だったのかもしれませんね。

大人と子どもの狭間から即時取得の主張が誕生したといえます。

不動明王

コラムの編集部では、不動というからには不動明王の仏像も考えられるのではないかと議論されました。

仏像は動産ですから、即時取得可能です。しかし、不動明王を不動産と解する余地はあるのでしょうか。

たしかに「不動」という文字が付いています。しかし、文言を素直に読むと、明王が動かないことを意味しているにすぎません。ちなみに、明王は、怒った表情の仏様です。

不動明王も、不動明王の仏像も、動かないことには間違いはないでしょう。

しかし、動産が動かないからといって、不動産になることはありません。大きなのっぽの古時計は動産ですが、もう動かないからといって不動産になるわけではないのです。

なお、編集部では、「動く不動産」は希少であるが、「動かない動産」は無数にあることを既に突き止めています。

動く不動産

ところが、編集部がWikipediaを綿密に継続調査したところ、なんと、不動明王は「不動さん」と呼ばれていることが判明しました。私たちは、ついに真理に到達したのです。

こうなれば、ご依頼者は、トレーラーハウスリカちゃんハウスを即時取得したと強弁するしかないのでしょうか。

車の一部であるトレーラーハウスが不動産だとか、玩具であるリカちゃんハウスが不動産だとか、もはや詭弁も甚だしいというべきでしょう。

相田おねえさん

そうなんだ~

話を整理しましょう。不動明王の仏像は動産です。そして、不動明王の仏像は不動さんなのです。

その文言に従う限り、不動さんを即時取得することは100%可能であると断定できます

現世では動産かもしれませんが、彼の世では不動さんなのです

まさか不動さんが仏像であるとは気付きもしなかった採点官は、バイブル(仏典)を紙切れのように扱っていたのかもしれませんね。

現世と彼の世の狭間から即時取得の主張が誕生したといえます。

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